土地活用のための明け渡し

  実際に、ご相談を受ける中で多いのは、有効活用のため、契約更新を拒絶したい、契約更新を拒絶できるでしょうか、というご質問です。
法律的には、更新の拒絶に、正当事由が認められるのか、という議論になります。
そして、このようなケースでは、そもそも訴訟になったら立ち退き料を払っても明け渡しが認められないケースもあり得ることは念頭に置く必要があります。
 
また、問題となった裁判例の多くは、バブルの時代のものがほとんどで、現在の経済状況にそのまま当てはめて良いのか、疑問もあるところではありますが、裁判例では、想像以上に高額の立ち退き料を要求しているケースがほとんどで(現行家賃の○年分等)、最終的には、このような高額の立退料が必要とされるリスクがあることも念頭に置く必要があります。
 
他方で、当事務所の弁護士の経験上は、現実的には、交渉(というよりも「お願い」)で決着することが多いため、理論的には多額の立ち退き料が必要なケースが、比較的負担の軽い条件で済むケースもあるといえます(退去時期の緩やかな設定、一部家賃免除、代替家屋の提供等)。
 
 たとえば、過去の解決事例をいくつか挙げますと、以下のような事例がありました。
 もちろん、ケース事の解決になりますので、全ての事案で同じような解決結果を保証するものではありません。

 その1 「居住用平屋」を、「土地有効利用目的」で明け渡し請求した事案

    ある土地のオーナーが、建設会社に、所有地に建物を建築させ、建築した建物を、建設会社の子会社が、一括借り上げして管理を行う形態での不動産経営を行っていた。
    
最近最寄りに駅が出来た土地があるため、同じようにアパートを建設することを考えていたが、対象土地上には、オーナーが相続した古い平屋が複数存在し、それぞれ先代から借家に出していた。
    そこで、平屋が老朽化していること等を理由に、更新は行わない旨や、取り壊しをしたいので、退去いただきたい旨を個別に通知し、建設会社が事実上間に入って、個別の借り主と退去交渉を進め、時間はかかったが、一戸を除いて全て退去に協力いただくことが出来た。

    しかし、その内一戸は、高齢の生活保護受給者で、耳も遠く、立ち退きの提案についても、自分は先が短いから、死ぬまでここに住みたいとの意向を変えず、交渉は暗礁に乗り上げた。
 
    オーナーの相談を受けた当事務所の弁護士は、借り主が高齢であること等から、相続の発生まで待つことも選択肢であることを説明したが、交渉が決裂したら諦めるという前提で、弁護士に明け渡しの交渉を一任することにしました。
    事情を聞くと、本件賃貸借契約は、家賃は月額約3万円であるが、すでに法定更新となってから長い年月(20年以上)が経過し、当初契約書も紛失していたとのことです。

    そこで、まずは借り主の意向を確認することにしましたが、知らない人からの通知は全て受領を拒絶するという対応とのことであったため、オーナーにお願いして借り主を呼び出してもらい、対面して事情を聞くこととしました。
    面談に際して、予め退去の合意書は作成し、当日の話の流れによっては、そのまま書面に署名してもらうことも出来るように準備して面談に備えました。

    面談し、話を聞くと、オーナーとの関係はこれまで良好であったため、オーナーに迷惑をかけるつもりはない、という対応でした。
そこで、もし借り主が死亡した場合、見寄が無いことから、後の処理にだいぶ苦労することになる、という話を説明し、また、同じような家賃の物件を、建設業者において確保すること、転居の手伝いをすること等を説明したところ、その場で退去の同意書に署名をしていただくことになりました。
    その後、建設会社の協力のもと、合意に従って無事退去が完了しました。
 
この事例のポイントは、裁判を行うと、立ち退き料を支払っても退去が認められない可能性がある事案であり、交渉が決裂した場合、相続発生まで待つという選択肢をオーナーが理解していたため、弁護士が交渉に入ることが出来たことにあります。また、オーナーと借り主との関係が良好な事案であったため、借り主の不安を除去することや、オーナーも困ることを説明することで、退去の合意を取り付けることが出来ました。

さらに、跡地にマンションを建設する予定の建設会社が全面的に協力し、転居先の手配から転居まで手配したため、スムーズに進めることが出来たといえます。
     

 その2 「事業用物件」につき、「土地有効利用」のため解約を求めた事案

    ある土地のオーナーが、大手自動車メーカーの子会社(ディーラー)との間で、借り主が、建設協力金を支払い、その建設協力金をもとにオーナーが営業所兼車庫を建設し、これを賃貸する契約を締結していた。

契約から数十年経過しており、建設協力金も既に全額支払い済みとなっている状況において、オーナー(の推定相続人)が、相続税対策の観点からアパート建築を考え、建設会社を通じて、借り主会社の担当者と話したところ、どうやら退去の方向で考えているようであるが、借り主会社は、明確な回答を拒否している状況でした。

オーナーの相談を受けた当事務所の弁護士は、営業補償として相当額の支払いを覚悟することが受任の前提であることを説明したところ、余剰資金が十分にあるので、将来を考えてある程度高額であっても支払いをして退去してもらいとの意向であったため、受任しました。

事前の協議内容によると、必ずしも明け渡しを拒否しているわけではないようでした。そこで、まずは、協議したい旨通知したところ、担当者から連絡があり、確かに退去には応じる意向はあるようでした。
明確に回答しなかった理由は、本社決済が必要なこと、代替地の候補が見つかることが決済の条件であったことの他、従前間に入っていた業社担当者の高圧的な態度と通知が気に入らなかったという感情的な問題もあったようです。

そこで、明け渡し期限の設定を急がず、退去の条件を先に詰めることで話しをすすめたところ、立ち退き料は0、その代わり原状回復義務を負わないこと等の条件で合意が出来ました。
代替地も間もなく見つかったため、そのまま合意書を締結し、スムーズに明け渡しを実現できました。

   この事案のポイントは、オーナーとしては、具体的な明け渡し時期について結論を急ぎがちですが、裁判になった場合などを考えると、相手方の意向も尊重しながらある程度余裕を見て話しを進めないと、かえってこじれる可能性があることも考えるべきであった、ということでしょうか。
 

その3 「事業用物件」につき、「土地有効利用」のため解約を求めた事案

ある土地のオーナーが、相続対策、土地有効利用のため、ちょうど更新時期を迎える倉庫兼営業所(賃借人は、大手上場会社)を取り壊してマンションを経営することを考えました。
不動産会社のアドバイスを受けて内容証明を作成して発送し、その後不動産会社の担当者が、賃借人会社の担当者に、明け渡しの意向を確認に赴いたところ、一切交渉には応じてもらえないという状況でした。

     そこで、オーナーから相談を受けた弁護士が、建物自体は老朽化とまでは言えないこと、賃料も月額約数十万円と低額ではないこと、賃借人の事務所単位の売上げが相当高額であることが想定されたため、営業補償の話になると、支払い困難な金額の提示を受ける可能性があることも説明しましたが、まずは交渉をして欲しいとのことでしたので、交渉の依頼を受けることになりました。

弁護士が、支店の担当者より意向を聴取したところ、オーナーから退去を要求された以上、退去はやむを得ないと考えており、代替地を探すことにするが、許認可の関係があるため、ある程度の時間が必要というような趣旨の話しでした。
立退料についても、敷金と同額程度をいただければ良いです、という回答でした。
そこで、退去を前提に、許認可の進展を定期的に情報交換するかたちで交渉を進め、代替地の建築許可が下りた段階で和解書を締結し、無事明け渡しに至りました。



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